パワハラの通報があったときに初動を誤って事態をこじらせてしまうパターン
ハラスメント窓口にはいろんな方が相談に来られます。その中でも対応が難しいのが、会社に対する不満やご自分の処遇への不満を、パワハラという形に変えて相談窓口に対応を求めてこられる方です。たとえば、「自分は異動させられたがこれはパワハラだ、異動させられる前に自分だけ不公平な扱いをされていた」といったような相談です。
このような方に対し、会社内部の窓口が丁寧に話を聞いて事実関係の調査を始めたりしてしまうと、後で大変なことになります。
たとえば、ひたすら会社に証拠を出すように求めてきたり、調査の結果、特に問題なかったと報告したら、「そんなはずはない!こんなこともあった!」とまた新たな事実を出してきたりして、いつまでも対応が終わらないというような事態に陥ります。
これは、相談窓口の初動が間違っているために起こってしまうことなのです。では、何が間違っているのでしょうか?
ハラスメント相談窓口で初動でやってはいけないこと
ハラスメント相談窓口が初動でやっていけないのは、被害者の申し出を鵜呑みにしていきなり事実調査に入ってしまうことです。
先ほどの事例でどんな問題があったかというと、 ①ハラスメント窓口の通報の目的が、ハラスメント以外のところ(会社や処遇への不満)にある可能性がある ②被害申告の内容を後で覆せるようになっている ③そもそも申告内容に具体的な事実が含まれていない 、というものです。
これらの問題をクリアしてから事実関係の調査に入らないと、いつまでも相談窓口の担当者が振り回されることになってしまうのです。
ハラスメント窓口の初動のポイント
以上の問題が起きないようにするためには、ハラスメント窓口の初動において、次のポイントを守ることが重要です。
相談者に、5W1Hに基づいて具体的な事実関係を説明してもらう
相談者は、ほとんどの場合、自分が置かれているつらい状況をなんとかしてほしいと思って相談窓口に相談します。そのため、なかなか具体的な事実関係を整理して伝えるということはできませんし、どうしても「パワハラされた」「不当な取り扱いをされた」といった、「評価」を伝えようとしてしまいます。
しかし、評価だけを聞いて会社側で事実関係を調査し、相談者にとって都合の悪い事実関係(要は問題がなかったという調査結果)が出てくると、自分のハラスメント被害にあったという評価は変わらないので、いつまでもその評価にこだわってしまいます。
これを防ぐには、相談者が辛かったとしても、相談窓口では「事実」を把握することがどうしても必要なのです。
相談者の主張する事実関係だけを見て、そもそもハラスメントとして問題となるかどうかを検討する
パワハラだと主張して相談されてくる方に話を聞いてみると、仮にそのまま鵜呑みにしたとしても、確かに嫌だとは思われたんだろうけれども、違法なハラスメントとはいえない、ということはたまにあります。
上で書いた「異動がパワハラだ」というのはその例です。
人事異動は、通常は会社の就業規則または人事権に基づいて行うことができるため、会社側に不当な目的がない限りは違法と評価されることはありません。もちろん違法であることもないわけではないので、その点は確認する必要がありますが、具体的な事実関係の調査に入る前に、法的にどのような問題があり、どの事実について調査する必要があるのかを検討する必要があります。
会社の問題として解決可能かどうかを検討する
仮に相談者の言うとおりだったとしても、会社として問題解決をすることが難しい問題というものは存在します。
たとえば、上司と部下のコミュニケーションの相性が絶望的に悪い場合に、部下を異動させたときに、その部下から異動がパワハラだ、という申し出がされた場合です。
もちろん会社としては、上司と部下の間に入ってコミュニケーションの問題が起きないように配慮すべきですが、それをしてもなお解決できない場合というのは存在します。そのような場合は、上司と部下を直接コミュニケーションしない環境に置くという解決策しかありませんが、そのために部下を異動したことが不当だと言われても、会社としてはもうどうしようもないでしょう(もちろん、上司を異動させるという手もありますが)。
このように、組織として誠実に対処したとしても現実にはどうしようもないということもあるので、このような場合は、検討結果を相談者に伝えて対応終了とする、とせざるを得ない場合もあります。
困ったときこそ外部相談窓口の活用を!
今回は、実際に起こるとなかなか対応が難しい事例のご紹介でした。
どの会社にも、「扱いが難しい」という方はおられるのではないかと思います。
そういう方からハラスメント窓口に相談があり、対処を間違えると、担当者が大変苦労することになります。
具体的なケースに応じてどのように対応すべきか、このような対応で間違っていないかを相談できる外部窓口があると大変心強いと思いますので、ぜひこの機会に外部相談窓口の活用をご検討ください。
担当者には難易度の高い業務ですが、弁護士にとっては専門・得意領域です。
ぜひ弁護士を活用し、本来の業務に集中できる環境をつくってください。